初年度は、論点整理の為に先行研究の整理を行い、仮説構築の作業と現地調査を実施した。 国家と市民社会の関係に関する先行研究の整理は、「政治空間」が紛争時の人道救援という分野でどのように形成されているのかに注目した。「空間」とは物理的な場所を指すだけでなく、行動規範や意思決定のルールなどが共有される場と理解される。国家としての特定の利益の促進が人道的規範のグローバル化の中でどのように作用するのか考えた場合、国益を体現すべく活動する軍事部門による人道活動と人道的規範をグローバルな観点から体現していると想定されるNGOなどの市民社会が形成する空間では、時に「人道主義」という普遍的であるはずの価値をめぐる政治的な争いが発生し、「人道主義」の基盤となる中立性や不偏性の変容が見られる。このような、「人道的空間」の政治化の問題は、国家と市民社会の関係のみならず、市民社会そのものの多様化と変質をももたらす。 2002年2月には、この点について欧州にて調査を実施した。ウィーンではオーストリア国際問題研究所、OSCE紛争予防センターの関係者とバルカン半島における紛争について、またジュネーブではUNHCR、ICRCにて軍事部門と人道組織の関係、中立性・不偏性の問題について議論した。ロンドンでは、東ティモール問題についての会議に出席し、またOXFAMの担当者と東ティモールにおけるNGOの役割についての意見交換を行った。 軍縮分野では、政府によって独占されていた政策決定のプロセスが専門知識を持ったepistemic communityに徐々に開放されつつある。そうした政府と市民社会のインターフェースの場としてトラック2会合があるが、2002年3月にワシントンで実施された日米間の軍備管理軍縮問題を協議するトラック2会合に出席し、当該の問題のみならずこの会合の意義などについて意見交換を実施した。
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