本研究のテーマは紛争後の平和構築活動、あるいは軍縮といった安全保障に近接した領域において新たに出現した市民社会アクターの活動、ならびに伝統的にこうした領域においてほぼ独占的に活動してきた政府と市民社会の関係について分析を加え、政府と市民社会の関係についての理論的考察を行うことであった。 この目的のために、米国ならびに欧州諸国において数次にわたる調査を実施した。軍縮の分野においては、日米軍備管理・軍縮・不拡散・検証委員会トラックII会合というアリーナに着目し、政府セクターと研究セクターの交わる場として、どのように政治(政策過程)におけるアジェンダ・セッティング、政策アイディアの流れの形成に寄与しているのか、また日米間におけるこうしたトラックIIと位置づけられるアリーナへのアプローチの違いについて、実際に会合に参加することによって知見を得た。(同会合における対露非核化支援政策の形成についての報告は、本補助金の成果である。) また平和構築の分野においては英国のOXFAMやスイスのICRC、あるいはWSPなどの非政府組織(NGO)と日本のNGO(ジャパン・プラットフォーム、PWJや難民を助ける会)の政府との関係について分析を行った。また、イタリアによるコソボ紛争時の難民支援策が官民一体となって執行された事例について研究を実施した。これらの事例から、非政府活動の「政治化」の問題(日本のアフガン復興支援をめぐる政府・政治とジャパン・プラットフォームの確執)や「国家的アジェンダ」の非政府活動への投射の問題(イタリアの「社会の安全保障」への関心と「虹の架け橋作戦」における政府・非政府共同の大規模な人道救援活動の相克)などはこの国家・社会構造の特質が色濃く反映されていることが判明した。
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