まず数量競争に基づく立地モデル、いわゆる立地-数量モデルの基本的な性質を明らかにした。最初に、代表的なモデルである円環市場モデルを取り上げた。昨年度の研究では、数カ所に多くの企業が集まる均衡(部分集積)や各企業が等距離に立地し集積が起きない均衡(分散均衡)など、様々なタイプの均衡があることを明らかにした。今年度はこの性質を精査し、どちらのタイプの均衡がより出現しやすいのかを分析した。その結果、前者の均衡は同時手番ではなく逐次手番を考えれば現れないこと、また前者の均衡が存在するには輸送費用関数の形状に制約を加える必要があるが、後者には必要ないこと、などがわかった。これらの結果は分散タイプの均衡がよりrobustであることを示している。次に、もう一つの代表的なモデルである直線市場モデルにおける、企業立地と経済厚生の関係を明らかにした。企業集積は、価格競争モデルと異なり、必ずしも経済厚生を損なうものではないことを明らかにし、複占に限らず企業数一般の寡占モデルにおいて、企業が集積する誘因は社会的に見て過大であることを明らかにした。 また応用研究として、公企業と私企業が競合する混合寡占市場について、立地モデルを使って分析した。まず、私企業が国内企業である場合には、全ての私企業の集積が現れることを明らかにした。これは、公企業との競争は私企業の横並び行動を誘発することを明らかにする結果である。更に、私企業に外国企業が含まれるケースも分析し、外国企業数が少数である場合には外国企業の存在は国内私企業の立地パターンに影響を与えないが、外国企業数が増えるにつれて影響が表れることを明らかにした。通常の混合寡占モデルでは、外国企業が1社でも存在すると均衡が劇的に変わるのであるが、この研究は、この法則が必ずしも成立しない事例を明らかにしたという点でも意味のある研究である。 同時に、基礎的な研究として、企業の研究開発と立地行動の関係も分析し、研究開発に伴う不確実性が企業の集積を生むメカニズムを明らかにした。
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