本年度の研究により明らかになった点はマクロ・ミクロの多岐に渡る。まずマクロ的には、日本の製造業および鉱工業における生産の変動をマクロショックとミクロショックに分割した揚合、後者の割合が高いことが明らかになった。従来の、比較的単純な因子分析を利用した研究とは異なり、動的因子分析を行った結果、従来極めて不安定と見られていたミクロショックとマクロショックの産業ごとの重要性は、実は安定的であること、および80年代後半のバブル経済ではマクロショックの重要性が時的に増加したことが明らかになった。次に、ミクロ的分析においては、日本の製造業における企業統治メヵニズムに関して、新たな視点を提供することができた。上場企業数千社のパネルデータを用いた分析の結果、日本の企業の取締役は企業収益の低下に伴い、辞職・解雇されていることが明らかになった。従来、社長交代に関しては同様の現象が知られていたが、社長交代よりもはるかに頻度が高い取締役辞任に関しても同様の結果が得られたことにより、日本の製造業においては経営者のインセンテイブメカニズムが全般的には機能していることが明らかになった。しかしながら、従来の結果と異なり、経営者インセンテイブメカニズムにおいて、銀行・企業間の関係はほとんどの場合有意な効果をもたらしていない。これは、従来重視されてきた日本の企業統治メカニズムとは相反する結果である。本研究では、取締役に企業内部出身者が多い企業ほど、また役員持ち株比率が高いほど辞任確率が低いことが明らかになっており、銀行との関係よりもむしろ、企業内部の労働者・経営者関係や昇進システムのほうが企業統治に影響が大きいことを示唆するものとなっている。
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