本研究は、信用制度の歴史的多様性を重視する観点から、ステュアートの信用制度論の学説史的および理論的特質を解明しようとするものである。初年度にあたる今年度は、ステュアート信用制度論の基本的骨格を明らかにすることに力を注いだ。その手掛かりとして、ステュアートが、発展した市場社会では商業的信用がうまく機能するのに対してこれから発展すべき社会ではそうではないとみなしたのはなぜか、という問題に焦点を当てつつ考究を行った。今年度の研究を通じて明らかになったのは、次の点である。 ポイントは、ステュアートの目指したものが、現金として機能する紙幣の創造であったという点にある。紙幣が現金として流通するためには、それに対する公衆の信用がなければならないが、この信用は返済期限の規定されていない信用、すなわち事実上それは長期の信用である。ステュアートにおいてその信用を支えるのが、担保の土地であった。つまりステュアートは、紙幣が現金として授受されるためには、それが富によって基礎づけられていなければならないと捉えていたわけである。それに対してイングランドのような発展した市場社会では、すでに現金としての貨幣は、金ストックとして豊富に存在する。現金が豊富に存在するのであれば、それに基づいて商業的信用のような短期の信用が授受されることに支障はない。こうしてステュアートの信用制度論は、長期の信用に基づくことによってはじめて成立する貨幣制度と、安定した貨幣制度に基づくことによってはじめて機能しうる金融制度とを区分しつつ、貨幣制度を支える長期の信用をどう構築するかという点について立ち入って考察したものだったのである。 以上の研究成果をふまえ、次年度は、貨幣制度と金融制度との多様な関連をステュアートがどのように理解していたかという点についてさらに考察を進めていきたい。
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