平成13年度は、労働市場の一般均衡モデルの開発を継続するとともに、コーポレート・ガヴァナンスに関する政治経済学理論モデルの研究に着手した。 1.エージェントが、被雇用労働者・失業者・企業家の三態の間を確率的に移動する、フローアプローチに基づく簡単な労働市場の一般均衡モデルに、年齢の若い企業ほど生存確率が低いという企業のライフサイクルの特徴の定式化を加え、定常状態での起業活動・失業率を求めた。さらに、パラメータの範囲によっては起業活動が活発に行われる均衡と不活発な均衡が複数均衡として同時に成立可能であることを示した。本研究の成果の一部は、「企業のライフサイクルと日本の労働市場」(堀江・徳賀編『グローバル化と金融・経済政策』九大出版会)で報告した。 2.恒常的に発生する企業と労働者の間のスキル・ミスマッチの調整方式と、労働市場のコンディションとの間の相互依存関係に関する労働市場一般均衡モデルの研究を継続した。労働者のスキルがラーニング・バイ・ドゥーイングで向上するケースでは、中古労働市場が不活発な経済ほど、かえって新卒労働市場が活発になること、企業と労働者による意図的な技能投資が必要なケースでは、逆の結果となることが示される。(結果はディスカッション・ペーパーで報告。) 3.簡単な世代重複モデルを用いて、少数株主保護などのコーポレート・ガヴァナンスに関する施策に関するエージェント間の選好の違いに基づいた政治経済学モデルの作成に着手した。合衆国およびイギリス経済において、コーポレート・ガヴァナンス強化のプレッシャーが年金基金側から起こった現実に鑑み、年金制度のあり方とコーポレート・ガヴァナンスとの間の政治的均衡における相互依存関係の分析が今後の課題となる。
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