研究概要 |
本研究の目的は,不完全競争論にともに着目しているカレツキアンとニュー・ケインジアンの対比から,ケインズ的なマクロ経済学の展開を検討することである。とくに,所得分配の関係から彫琢されたカレツキの不完全競争論に着目し,そこでのケインズ的な有効需要論のロジックに注目することが本研究の特色である。 本年度は,こうした研究の基盤固めとして,まず研究論文,IKEDA(2001)において,カレツキ的な不完全競争論にもとづくマクロ経済学と対比される,いわゆる新古典派マクロ経済学を批判的に検討した。すなわち,通常の新古典派マクロ経済学が想定する,いわゆる完全競争の成立している経済においては,所得分配の問題は,生産要素の価格付けの問題として「市場の理論」の一部として陰伏的に取り扱われ,とりたてて所得分配の理論なるものは必要ないとされる。こうした新古典派マクロ経済学の理論的特徴は,現在の所得分配論の主流の一つを成す,いわゆる「人的資本理論」にもあてはまるものである。この点は,研究論文,池田(2001)でより詳細に論じた。 一方,カレツキ的な不完全競争論が含意していることは,完全競争経済からの乖離としてマクロ経済を把握するということに他ならないのであるから,所得分配の問題は市場における単なる生産要素価格以上の含意を持つことを意味する。この点は,本年度の研究によって一層明確になったと思われるが,来年度は,より直裁に不完全競争論を援用しながらマクロ経済学を展開しているニュー・ケインジアンのモデルをとりあげ,カレツキの不完全競争論の観点から検討することにしたい。とりわけ,カレツキ的な所得分配と有効需要の相互作用についての検討は,既存のニュー・ケインジアンのモデルにおいては皆無に近い状態なので,本研究の特色として集中的に検討することにしたい。
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