本年度の研究により得られた成果は、以下の通りである。 1.一変量時系列データの長期従属性の変化に関する、新たな検定手法を確立した。前年度導出したLM検定統計量に加え、局所最適検定の漸近分布を導出し、検出力の特性を明らかにした。中でも特に独創的な点は、2次元の局所パラメータの設定方法の提案が挙げられる。 2.上記検定問題に関する複数の検定方法を比較し、次の結果が得られた。(1)局所最適検定は理論的には優れた検定であるが、有限標本では帰無仮説の下でのサイズが歪みやすいため、実証分析への応用は望ましくない。(2)線形トレンドがないモデルではLMタィプの検定が優れている。(3)線形トレンドのあるモデルでは、非定常過程から定常過程への変化の検出に関しては、LMタイプの検定が優れているが、定常過程から非定常課程への変化の検出では、LMタイプの検定と先行研究の検定が優れている。 3.多変量時系列モデルにおけるグレンジャーの長期因果性の新たな検定方法を確立した。 4.共和分行列の部分行列の階数の検定方法を開発した。グレンジャーの長期因果性の新たな検定方法を行うには、ある分散行列の階数を知る必要があった。この階数は共和分行列およびその直行行列の部分行列の階数に依存するが、この階数の検定方法を新たに開発し、その漸近分布を求めた。結果は大きく二つに分けることができる。(1)データが線形トレンドを含まない場合には、検定統計量は漸近的にカイ2乗分布に収束する。(2)。線形トレンドを含む場合には漸近分布はカイ2乗分布で上から押さえられる。
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