本年度の研究においては、特にシベリア地域の労働市場に焦点を絞った研究を行った。地域労働市場への接近の仕方として、第一段階として西シベリアという比較的大きな地域区分での分析、第二段階として、西シベリアのなかの構成主体であるノヴォシビルスク州をケーススタディとした分析、第三段階として、労働力供給源としての高等教育機関の現状に関するミクロレベルでの分析、という3つの接近法を採用した。 第一段階の西シベリア経済地域での枠組みでは、この地域に見られる南北地域格差を着眼点とし、旧ソ連的伝統的基幹工業が支配的な南部地域では、ブルーカラーリセッションが、単に工業部門の雇用破壊を生み出しているだけでなく、雇用におけるサービス経済化をも阻むこととなっていること、そして地域政策として基幹産業の活性化とシベリア全体の産業連関の強化が必要であることを主張した。 第二段階のノヴォシビルスク州をケーススタディとした研究では、旧ソ連時代から地域が継承している優位性と劣位性に着目し、伝統的機械工業の衰退が、食品工業のような新興工業部門の勃興に取って代わろうとしていること、しかし、それは食品工業そのものの絶対的勃興ではなく、機械工業衰退による相対的勃興であること、雇用面では、産業構造の変化に見られるような新興工業やサービス業への雇用のシフトが見られるのではなく、いまだ伝統的機械工業が最大の雇用吸収部門となっていることを明らかにした。 第三段階のミクロレベルでの分析では、若年層の労働供給源としての大学が、市場経済化の過程で旧ソ連時代のシステムをどのように放棄したかを、現地での聞き取り調査をもとに考察した。
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