「ケアの政治経済学」アプローチの2年にわたる研究のうち、今年度は「基本所得basic income」政策構想と政治経済学との関連に焦点を当てて研究を行った。基本所得構想は、ヨーロッパで近年、従来の社会保険と公的扶助とからなる社会保障政策の代替案として浮上してきているものである。ジェンダー研究者からは、本構想が従来の社会保障政策よりジェンダー平等的であるという点での評価がなされている。他方、本構想が政治経済学的にいかにして正当化されうるのかについて、ここ数年議論が活発化している。この両者を検討し接合させることを通じて、「ケアの政治経済学」視点の構築を目指したのが本年度の研究であった。 本年度前半は、文献研究とメールによる海外の研究者との意見交換等を行った。後半は引き続き文献研究と論文の執筆、および研究会での報告を通じた国内の研究者との意見交換を行った。また3月7日から31日まで、基本所得構想の提唱者の一人、ビル・ジョーダン教授(エクセター大学)のもとで研究を行うと同時に、イギリスにおける基本所得構想の中心であるシティズンズインカムセンターでインタビューを行う。執筆中の論文は近日脱稿し、来年度ミネルヴァ書房から出版される講座・福祉国家第5巻『社会的連帯の理由』に所収される予定である。
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