研究概要 |
今年度は本研究課題に関するサーベイを行う一方で,環境保全技術の研究開発についての基礎研究として日本の社会にかなり適合するといえる次の経済社会を想定して理論分析を行った。日本の産業界(経団連)がすでに採用している自主的取り組みの枠組みにしたがってn個の企業から構成される寡占産業が環境投資を行っているときに政府が排出税を課し,そのあとでその排出税率を踏まえて各企業がクールノー競争を行う。この社会に対して部分ゲーム完全均衡を導出して以下の基礎的知見を得た。 1,企業の利潤は研究開発の段階で脇力投資を行う方が高くなり,協力投資を行う誘因を必ず持つ。 2,協力投資を行う場合と非協力投資を行う場合の排出削減努力の水準は協力投資の方が社会的常に過少投資となるとは限らない。 3,協力投資を行う場合と非協力投資を行う場合の社会厚生については非協力投資の方が常に高いとは限らない。他の条件が一定のとき,協力投資の方が望ましい領域を企業数を横軸に,そして排出削減努力のズピルオーバー効果を縦軸にした平面上に示すことが可能であり,頑健性の高いシミュレーション分析の結果として脇力投資と非協力投資が社会的に無差別である曲線が概して右上がりになる。 4,上記3の結論は排出削減投資の努力水準についても同様の結論が得られる。 今後はこの分析結果を基礎にして京都議定書で定められたクリーン開発メカニズムの枠組みに拡張させたい。そして環境保全技術の国際移転に係る諸問題を現実の国際社会の実態に沿った方向で解明していきたい。
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