中国における出入国統計は整備されていないため、本年度は、まず資料収集から着手して、1970年代末以降中国から海外への人口移動の規模及びその地域構造の解明を進めている。中国国内の関連資料および主要関係国の最新人口センサス。出入国統計データから整理した結果、近年の中国から海外への人口移動には、次の特徴があると判明している。 1.「改革開放」以降の約20年間に、中国本土から海外への人口移動規模は250万人を超えている。先進国及び近隣諸国(地域)は主な移動先となっており、香港・アメリカ・日本・カナダ・オーストラリア・EU・ロシア・韓国が中国からの転出者の約9割を受け入れている。 2.主な転出地は、所得および教育水準が相対的に高い沿海地域である。特に主要大学。研究機構やその他分野のエリートが集中している北京市と上海市、および海外の華人ネットワークとのつながりが強い福建省と広東省からの転出が目立つ。また、東北3省から日本・韓国・ロシアへの移動も急増している。 3.移動者の転入先国における職業は二極分化になっている。研究者。技術者。経営者になるものも少なくないが、伝統製造業や飲食業の底辺労働者として生計を維持しているものも多い。 4.当初、「頭脳流出」への懸念が強かったが、近年ハイテク技術者。研究者。経営管理者など専門人材の北京・上海など地域への回流は始まっており、中国のIT産業などの発展や國際社会との融合に大きく促進している。一方、個別省から海外への不法入国の増加は新たな問題となっている。 上述した移動動向を大体判明したとともに、人口移動と経済グローバル化との関係、人口移動の転入先の労働市場・所得分配の影響などについての分析も始めている。その内、一部の内容は國際研究会(University of Oxford)で報告されており、一部の内容は公表される(予定)論文の中に反映されている。
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