報告者は、一九世紀フランスにおける支配階層の実態とイメージを把握するために、とくに「政治空間に対する商工業者の参入」に着目して分析をおこなうことを意図した。その際、地方都市レンヌにおける市議会を研究対象とし、市議会議員における商工業者のウェイト、市議会の議論における商工業者の利害の取り扱い、市予算における商工業関連予算の比率の変化、この三点に着目した。 本年度は、このうちとくに第一の点を重点的に検討した。まず「商工業者」と定義された人々の実態とイメージにアプローチする方法を考察した。この点については、すでに、プロソポグラフィと呼ばれる方法論が考案され、近世史研究を中心に広く利用されているが、報告者の関心からすると、この方法には(実態は良いとして)イメージに接近することができないという問題点があることが明らかになった。 そのため、報告者の課題を取り扱うにふさわしい方法を新しく考案することが必要になった。報告者は、その個人の職業や地位の実態と、市当局など第三者が彼らに与えた職業や地位との間にズレが存在することに着目し、そのズレが彼らのイメージをよく表現していると考えるに至った。そのうえで、資料が良く残っている国会議員に応用することによって、この方法の有効性を検証するという作業を進めている。それと同時に、主要な対象であるレンヌ市議会議員については、この方法を応用するための準備作業として、議員の職業や身分をかかわるデータベースの作成を進めている。
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