1、今年度は、日本の戦災復興都市計画と農地改革との関連を検討する前提として、戦災復興都市計画の政府レベルでの政策と大都市での同計画の実施過程に関する資料を収集し、これらの資料を基礎として、中央政府レベルでの戦災復興都市計画に基づく土地に対する政策理念の変化と、地域社会レベルでの戦災復興都市計画への対応の二点を中心に検討した。以下、この二点について、新たに得られた知見をまとめる。 2、戦災復興院は敗戦直後の住宅問題への対策という課題を重視し、都市部における地価抑制を政策課題に掲げた。同時に、同院は戦災地の土地を買い上げ土地整理を行う「地券発行」方式を構想するなど、戦前・戦時期の都市計画では見られなかった土地に対する公法的統制手法を用いた政策を構想した。しかし実際には上述の政策理念は敗戦直後の短い期間に修正された。戦災復興土地区画整理事業の規模が縮小しただけでなく、事業実施の原理においても、地価抑制を前提とした公法的統制手法を用いた土地整理手法から、区画整理事業によって土地の利用効率を高め地価上昇を促すことを前提とした手法へと転換した。こうして戦後の都市計画においても、戦前・戦時期同様に、地価上昇による土地売却益の増加を事業にとってプラスと考える土地整理手法が定着した。 3、中央政府レベルでの政策理念の変化を「下から」促したのが、地域社会レベルでの戦災復興都市計画への対応であった。土地所有者が中心となる組合施行土地区画整理事業の要望が政府に出され、東京では民間施行土地区画整理が戦災復興事業として実施された。東京での民間施行による戦災復興土地区画整理事業の中には、経済九原則の下で公共団体からの補助金が削減される過程で、自らの所有地の資産価値と替費地の売却益を増やす地価上昇が、事業実施の上で重要な役割を果たす事例も存在した。
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