研究概要 |
企業・事業評価の基本となる割引キャッシュ・フロー法が日本の実務界でどの程度浸透しているかを,事業会社・金融機関等を対象に聞き取り調査を行った.その結果,基本的なアイデアは広く理解され,日常業務における意思決定にも利用されていることが分かった.しかし,理論的な背景についての理解は必ずしも十分ではなく,事業を評価する際の要求リターンの水準についても,業界や特定の企業・事業部内で慣例的に使われている数字をそのまま流用するケースが多かった.また,企業の意思決定が多期間にわたって展開されることは強く認識されていたものの,それを考慮して分析を行うツールが確立されておらず,動的計画法,およびリアルオプション・アプローチを使って分析を行っている事例は数少なかった.多段階に展開される意思決定を分析するモデリング手法を確立し,その有用性を示すことの重要性が改めて確認された. このような結果も踏まえながら,本年度はケーススタディとして,事業会社における電力発電事業の評価,およびファーストリテイリング社,日産自動車といった急成長・改変期にある企業に注目し,電力・株式市場の価格データ,財務データなどを収集した上で統計分析を行った.これらの事業・企業をとりまく環境の不確実性は大きく,かつ将来的に実行可能な戦略・選択肢が大きい.そこで,連続時間モデル,離散時間モデルを利用しながら,従来の割引キャッシュ・フロー法では評価が難しい,もしくはできない側面についての評価手法について分析し,多期間モデルを使った意思決定の分析が特に重要であることが確認できた.さらに,いわゆるリアル・オプションの手法は金融市場における投資戦略の策定にも有効であることに注目し,投資対象となる資産クラスヘの配分比率を研究するアセット・アロケーション問題について,同様の手法を利用して分析を行った.またこれらの研究成果は授業の中でのプロジェクト課題としても利用されている.
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