研究概要 |
マクロ経済学者の多くは自然失業率仮説を受け入れ,インフレと失業との間の長期的なトレードオフの関係を否定するようになった.そして,最近は新しいトレードオフ,すなわち,インフレ変動と産出変動との間のトレードオフが注目されるようになってきている.またそれに伴い,中央銀行の目的も,インフレと失業の水準の加重和を最小化するのではなく,インフレと産出の分散の加重和を最小化するというように定式化されるようになってきている.そして,多くの理論論文によって「この中央銀行の損失関数の下で,いかなるタイプの金融政策ルールが効率的かつロバストであるか」という問題が考察された. 確かにこのテーマに関する理論的研究は盛んに行なわれているが,この問題の実証的研究はまだ多くない.本研究の目的は,インフレ変動や産出変動の決定因を実証的に明らかにすることである.本研究は,Taylor(1994),Svensson(1997),およびBall(1999)の理論的研究に基づいており,また,本研究で得られた実証結果はこれらの理論研究と整合的なものとなっている.Taylor-Svensson-Ballモデル(以下,TSBモデル)は,IS曲線,フィリップス曲線,および金融政策反応関数の3本の方程式からなる.このTSBモデルにおいて,インフレ変動や産出変動はこの3本の方程式の中のパラメータの大きさによって決定される.本研究では,25のOECD諸国のデータを用いてクロスカントリー分析を行ない,金融政策反応関数の政策パラメータとインフレ・産出変動との関係,およびフィリップス曲線の傾きとインフレ・産出変動との関係を調べた. この実証研究から得られた主な結果は以下の2点である.第一に,金融政策ルールの反応係数の値が大きい国ほどインフレ率が低く安定していること.第二に,フィリップス曲線の傾きが小さい国ほど産出の変動が大きくなっていること.さらに,フィリップス曲線の傾きの推定のロバストネスやフィリップス曲線の傾きの決定因についても検討した.
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