本研究では、情報処理アプローチの観点から、新製品の採用・普及研究、特に消費者の採用プロセスを捉え直し、新製品の採用・普及研究における今日の新たな課題を提示したうえで、その課題を解決するための理論的枠組みを提供していくことを目的として分析を行った。 まず、第1章では、1960年から1970年代において盛んに行われた新製品の採用・普及研究がここ最近まで停滞していた理由が述べられる。その理由として、新製品の採用・普及研究への関心が相対的に低下したことと、1980年代において消費者行動研究において展開された情報処理アプローチが、当時の段階で、新製品の採用行動を十分に説明しうる分析枠組みを持ち合わせていなかったことが指摘される。 第2章では、本論文が依拠する新製品の普及研究に関する先行研究がレビューされ、その問題点が提示されている。まず、農村社会学にルーツをもつ新製品の普及研究の今日までの大まかな流れが概観された上で、次に、新製品の採用プロセスに関する研究のレビューに焦点が当てられる。 第3章では、本論文の研究課題に取り組む上で有用であると考えられる「知識転移」という概念が取り上げられ、その問題点が指摘される。 第4章では、第3章で取り上げられた問題点を踏まえて、次の3つの仮説が導出される。 仮説1「ターゲットに対する購買関与度の程度が高い消費者ほど、ベースからターゲットへ知識の転移を行う傾向にある」が導出された。 仮説2「製品判断力の高い既存製品カテゴリーをベースとして選択することが、知識転移を促す」 仮説3「ターゲットのもつ属性に関する判断力の程度が高いほど、ベースの選択は促進される」 第5章では、仮説の検証が行われる。仮説の検証にあたっては、デジタルカメラを対象製品として、調査表を用いてサーベイ調査が行われた。分析の結果、仮説1、仮説2、仮説3いずれも支持された。
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