研究概要 |
本研究題目の下,貿易取引において必ず利用される貿易定型取引条件についての研究を行ったが,そこから得られたものは,わが国では依然として,FOB, CFR, CIFなどの伝統的な定型取引条件が多く用いられているということである。教科書的には,それらの条件は,傭船契約に基づき,バラ積みで輸送される物品にもっぱら用いられるものであるとされながら,わか国実務では,コンテナ詰めの製品類にも多く用いられているのが実情である。このような,あらゆる取引においてもFOB, CFR, CIFを使用するという慣行は,パリに本部のある国際商業会議所(International Chamber of Commerce ; ICC)の作成したインコタームズとは異なるものであり,この点で,インコタームズと実際の取引実務においては,ある種の溝-すなわち,理論と実践の間での溝-があること,を認識できた。これは何もわが国固有のものではなく,世界的にも類似の情況にあることも理解できた。 そこで,インコタームズの最新版である2000年版を基に,インコタームズの改変当事者であるICCのドラフティング・グループのメンバーの述べるところに焦点を当てて探ってみると,翻って,現実に行われているビジネス慣習に,いかにインコタームズの規定をあわせてゆくのかの模索が行われていることがわかり,研究成果においてはこれらの点を指摘した。例えば,従来から海上運送のみに使用されるべきとその使用が限定されてきたFOBが,複合輸送にも使用可能であるという見解に代表されるものである。この見解の基になっているのは,物品引渡の基準をship's railに求めるICCの斬新な解釈法にあることも指摘した。これらの諸点から,研究成果では,インコタームズは,契約交渉における時間・費用の節約を図るものであって,合意を促進させる一つの道具に過ぎないとする思考法を採ることの意義を説いた。
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