本年度は、国際経営を展開するアジア各国の企業のうち、日系企業の調査を実施した。経営の国際化を英語で経営することの可能性から分析することに焦点を絞り、当該企業の経営者や人事担当の中間管理職層の意見を求めながら、日系企業が直面している組織文化の変容について論点を整理することが本年度の主要な研究目的となった。また、本研究に関連する既存研究の整理及び、海外進出企業の近年の動向に関する全体的なデータを収集することにも力点をおいた。 日本企業を対象としたヒアリング調査では、当該企業が経営資源の移転を目的とした海外進出をする際に、人的資源の移転や海外要員の人材育成について直面する組織内コミュニケーションの方法として、英語化がどの程度進行し、またどのように評価しているかを明らかにすることが中心課題となった。日系企業では、台湾、シンガポールなど、既に現地日系企業が他の東南アジア諸国や中国大陸などへ主要製造拠点をシフトしている時期にあり、本社と現地子会社との間の一対一の双方向のコミュニケーションのみならず、これらの現地子会社を介在した第3国とのトランザクショナルな組織内コミュニケーションが必要となる現状にある。この場合の人的資源管理施策には、従来の本社主導型の日本語による国際経営の構図が維持できない状況にあり、社内文書や組織間の情報伝達に用いられる言語が変容している例も多くみられる。組織内での主要言語が変わることは、そこで働く人材に必要とされる能力や人材育成の内容にも変化が要されるという事象を招き、ひいては、企業グループ全体の国際人的資源管理戦略の変化をももたらすことが予測される。 このような仮説を確認するため、今年度は、日本本社、韓国、台湾、香港、シンガポールを対象に、人事担当者、経営者層を対象に実態を尋ね、次年度に実施する質問紙調査作成の予備調査を行うことができた。調査で得られた知見は、関連学会や紙面で報告を重ねる機会にも恵まれ、充実した研究調査活動を遂行することができたと思う。
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