今年度は、当初予定していたマレーシアの訪問調査時期に、テロによる影響から企業調査に計画変更が生じため、中国の振興国有企業を加えたフレームワークの構築を試行した。その結果、中国企業側の協力を得ることにも恵まれ、日本企業のアジアにおける経営の国際化と、台湾、香港圏からの中国投資、中国における国有企業と在中外資系企業(日系、韓国系、欧米系)を含めた人的資源管理システムの現状と、組織文化への影響過程について、幅広いデータ収集と一部ヒアリング調査を進めることができた。 平成14年度の質問紙調査は、中国の日本企業、韓国系企業、米系企業を対象に実施した。また、ヒアリング調査は、台湾と中国(北京、青島)にある地元企業、当該地域にある日本商工会議所(台湾の場合は日僑工商会)、(財)海外職業訓練協会北京駐在所で実施した。 本調査研究からは、次の諸点に関する知見が得られた。(1)新興中国国有企業の多国籍化に伴う海外現地子会社への影響、(2)新興中国国有企業の厳しい競争原理に基づいたインセンティブ・システムは、現在の中国の成長段階や中国の働く人々の職務観に一時的に受け容れられているものと考えられるが、ある程度の普遍性を伴うものとして評価されるよう進行している。(3)企業文化の共有や組織への貢献を助長させる意図の人材育成施策は、個人間競争を重んじる成果主義の人事労務管理と共存できる可能性がある。(4)中国企業は、米国の経営システム+日本の生産管理システムを中心に「良いものは何でも吸収する」という方向で発展してきたというのが一般的な解釈であるが、中国から他の国々に影響を与えるべき優位なシステムは今後創出されるのか。 (4)の論点は今後の課題になるが、以上の研究結果を整理しながら、関連学会(研究会)で報告を行った。平成13年度の研究成果の公開と共に、今年度の調査結果を報告し、享受したコメントを整理し、2年間の全体的な研究成果の公刊を目標に、その元になる小論作成の段階にある。
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