本年度の研究実施計画として、以下の三点の目標が掲げられていた。 (1)先行諸研究の検討を開始し、いくつかの仮説を導くとともに理論的基盤および研究フレームワークを確立する。 (2)電子的コミュニケーションが主体である札幌のNCF(Network Communication Forum)と、電子および対面的コミュニケーションが主体の札幌BizCafeで具体的に研究会を発足し、ある製品の経営戦略・オペレーション・技術開発などについて経営学的見地から助言すると共に、市民企業家としてその製品の研究開発に関与することでエスノグラフィックなデータを収集する(現在進行中)。 (3)テキサス大学オースティン校の研究グループとの共同調査に着手し、主としてテキサス州とメキシコ国境周辺に位置する複数の産業集積について、聞き取りならびに大規模なアンケート調査を実施する。 まず(1)については、著書(知識文化論I:知の神秘と科学第5章)により、本研究に該当する理論枠組みを形成するとともに、それに基づいた事例研究を実施した。その結果、地域の企業家活動と研究開発に関するいくつかの仮説的命題が導かれ、来年度以降の実証研究の足がかりを掴んだといえる。 また(2)については、いくつかの非公式な研究会を主催し、通信用電子デバイスに関わる材料研究に携わることができた。しかしエスノグラフィックデータの収集および解析法に問題が生じ、事業を継続しながら新たな手法の開発に全力を注いでいる。 最後の(3)に関しては、研究交流の一環として現地に赴く予定であったが、先方が日本での研究会を熱望していたこともあり、アンケート調査項目の設計を札幌で行うこととなった。しかしインタビュー調査や現地視察が不十分なため、来年度は現地で研究会を行うことを予定している。 また研究の成果を少しでも社会に還元するために、中小企業関連の専門月刊誌(月刊中小企業5月号)へ、本研究に関する概念的な内容を比較的平易な文章で紹介した。こうした作業は、本研究を社会に還元できる研究として整理することに大変役立ち、ここで整理された内容が再び理論フレームワーク形成へとフィードバックされた。
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