科学研究費補助金交付期間中の実績としては、まず初めに、平成13年7月に論文「A.ユアとJ.フィールデンの工場システムに関する分析について」を公刊した。この研究は、ユアとフィールデンの工場分析を、(1)労働条件、(2)労働時間の減少が貿易に対して与える影響、(3)児童教育、という三つの観点から比較検討したものである。両者の比較から、産業革命以後の社会の明と暗(いわゆる楽観論と悲観論)の典型ともいえるような思想が導き出せた。 次に、これまでの科研費交付期間中に精力を注いだユアの『イギリスの綿製造業』の熟読から、『製造業に関する原理研究』では十分に展開されなかったユアの綿製造業を中心とした歴史観が読みとれた。彼の歴史観を簡潔に述べれば、以下のようになろう。 もともとと綿織物は、アジア・アフリカ・アメリカの熱帯地方で製造され、19世紀初頭までイギリスの綿製造業はインドに太刀打ちできなかった。しかし、イギリスの機械生産の技術がヒンズー人の手に優るとすぐに、イギリスのインドに対する優位が確立した。だが、なおも、イギリスは他国と国際市場において競争しなければならなかった。他国との競争に勝つためには、絶えず技術改良に努めなければならない。しかし、かつてイギリスは、発明を促進する所有権を十分に保護してこなかったと主張する。また、アークライトの歴史的評価は、単に機械の究明に対してだけでなく、労務管理等を含めた総合的な経営管理方法の導入に対して与えられるべきであるとしている。 なお、ユアの綿製造業に関する歴史観については、『富山商船高等専門学校研究集録』第35号、において、論文として発表する予定である。
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