研究概要 |
本年度の研究によって得られた主要な知見は,以下の2点である。 (1)会計利益の社会的機能の1つとして,「企業業績の長期的趨勢情報」としての機能が期待されている。 近年,企業の保有する金融資産の増加に伴い,会計利益の短期的な業績尺度としての機能の必要性が増しているとされている。これは財務報告の個々の論点については正鵠を射ている。しかし,財務報告体系の全体として考察を行った結果からは異なる知見が得られた。すなわち,会計利益の重要な機能として企業業績の長期的趨勢を表すことの必要性が,社会から認められているのである。 (2)会計利益の「測定」と「報告」との関係に乖離が生じてきている。 会計利益の企業業績の長期的趨勢を表す機能が必要とされているが,その一方で短期的な業績の必要性も増している。長期的視点と短期的視点との間に生じる,財務報告体系全体としての矛盾の解決手段について考察を行った。この考察により,長期的視点において重要とされているのは分配可能な会計利益の測定であるのに対して,短期的視点において需要とされているのは情報としての会計利益の報告であることが明らかになった。したがって,測定と報告との関係を分離することによって,異なる2つの社会的要求に応えることが可能であることになる。
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