本研究の目的は、(1)業績の好悪と経営者の更迭の可能性、(2)経営者が自身の職位保全の手段として利益平準化会計政策を駆使する可能性、の2点の解明である。米国企業においては、業績の低迷が経営者の更迭の可能性を高めることが実証的に示されている。そこで、日本企業においても業績の好悪が経営者の在任期間に影響を及ぼすのか否かを確認するために、経営者交代に関するデータ整理を進めている。この作業は、現在も仕掛中である。 また、利益平準化を含む会計政策に関する文献のサーベイを鋭意行っている。例えば、経営者の業績評価においては非対称性が存在し、過去の好業績は将来の業績不振の穴埋めにはつながらないという仮説が提示されている。もしそうであれば、経営者は利益平準化会計政策を採用するインセンティブをもつと予測される。 さらに、利益平準化仮説を検証するために、財務データ等の収集と整理も進行中である。 以上の作業の過程で2本の関連する成果を公表した。まず「会計ビッグバンと連結予想情報の質的変化」(中村忠編著『制度会計の変革と展望』第8章所収)においては、会計制度政革により、経営者の業績予想値開示に対する考え方に変化が生じたことを実証的に示している。従来の前期並という予想値から控えめな数値を開示する傾向が強まったのである。この点で、予想値ベースでは利益平準化とは異なる会計行動が見てとれる。 もう一つは、「会計ビッグバンとミクロ会計政策」(『會計』平成13年11月号)である。これは会計制度改革に直面して従来にない規模の利益減少型会計政策を採用する経営者の姿を実証的に浮き彫りにしている。これらの研究結果から、会計制度改革という非定常的な状況においては、利益平準化という安定的な会計政策ではなく、ある方向(ここでは利益減少型)へ大きく重点を移した会計政策が選択されるという知見を得ることができた。
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