本年度前半4月から7月は本研究費にて英国ケンブリッジ大学ニュートン研究所に滞在し、そこで行われた「高次元複素幾何学」の特別研究活動に参加した。そこでは毎週2つから3つの滞在者によるセミナーが開かれた他、期間中2つの大きな研究集会が開催された。ひとつは4月にアメリカのクレイ研究所が主催した物理と数学合同の研究会であり、超弦理論や高次元複素幾何学の最新の研究情報についての情報交換、議論が行われた。その参加者との議論により私自身の研究(特にマッカイ対応や特異点解消)と物理のミラー対称性の関わりについて多くの情報が得られ、ニュートン研究所滞在中の研究に大きな影響を及ぼした。またもうひとつは6月後半にヨーロッパの代数幾何学研究者団体が主催したもので、期間中はヨーロッパの代数幾何学者が大勢ニュートン研究所に滞在し、研究発表や最近の研究成果に関する情報交換を行い、私と近いことを研究している人々とマッカイ対応や物理から出てきた数学の問題について議論することができた。 この滞在期間中、私は主に2つのことを重点的に行った。ひとつは今まで研究してきた3次元商特異点の解消を組み合わせ論的に構成できるグレブナ基底を用いた考え方を高次元化する研究である。これは先に述べた2つの研究集会に参加したアメリカのユタ大学のCraw氏をはじめ、多くの人の賛同を得、3次元でも代数多様体の分類論への応用ができそうであることがわかった。またもうひとつはニュートン研究所で同時に開催されていた物理の「M理論」の研究者との議論である。とくにアメリカのマサチューセッツ工科大学の物理学者Hanany氏とは互いの研究や計算にかんする情報を交換し、数学的にわかっていること、物理から数学の問題等、多くの有益な情報や新しい結果を得ることが出来た。 本研究費は以上の英国滞在で消化されたが、実際には帰国後も同様の研究また研究成果の公表を行っている。たとえば、本年度中期(8月から9月)は以上の研究成果を中国、四川で開かれた国際数学者会議のサテライトコンファレンス「弦理論的オービフォールド」にて発表し、物理学者から新たな情報を得た。またその後も、研究成果を発表するための論文執筆やセミナーでの研究成果の公表を続けている。 以上が本年度、本研究費にて行った私の研究実績の概要である。
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