本年度は、ミラー対称性がT双対性として理解できるというStrominger-Yau-Zaslow予想を、低次元のCalabi-Yau多様体をどう理解するのが適切であるかという問題と平行させて考えた。 前者は、理想的にはcalibrateされた中間次元トーラスのファイブレーションが存在して、ファイバーの双対トーラスをとることでミラー対称なCalabi-Yau多様体が構成できるという予想である。 後者は、3次元以上(特に4次元以上)で特異点を持つCalabi-Yau多様体が自然に現れるのを特異点のない多様体と同様に扱えるかという問題、双有理モデルが一意的でないときにどのような代表元を取るのが適切かという問題、ミラー対称性や一般に超弦理論で計算できる量はどのような枠組みで考えるのが自然であるかという問題などである。 後者の問題を扱うにはいくつかのアプローチが考えられるが、前者と親和性が高い方法として、Spin(7)多様体(将来的に期待するのはその上の、複素多様体上の導来圏に対応する適切なカテゴリー)の枠組みでのT双対性として一般的に理解できると美しいと考えている。この場合の標準的なcalibrationはT双対で保たれる。また、複素4次元(実8次元)までのRicci-flatな多様体はホロノミー群がSpin(7)に含まれ、より低次元のCalabi-Yau多様体におけるT双対はSpin(7)多様体のT双対を還元することで得られる。この研究に関して、2月12日に東京大学におけるワークショップにおいて講演を行った。 6月には京都大学の中島啓氏、東京都立大学の伊藤由佳理氏の研究成果を含んだ研究集会を開催し、30数名の参加者を集めた。 計算・出版に要する計算機環境を整えるためにソフトウェアなどを購入した。
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