1.複素曲面上の自己双対不定値Kaehler計量、即ち、不定値スカラー平坦Kaehler計量の存在問題に関して、LeBrunによるハイパボリック・アンザッツと呼ばれる正定値の自己双対計量の構成法と類似する方法(de Sitterアンザッツと呼ぶ)を用いて、二つの複素射影直線の直積上に時間的S^1対称性をもつ(共形平坦でない)自己双対不定値Kaehler計量の族を明示的に構成し、逆に、この構成法によって得られる計量の特徴づけを行った。さらに、これらの計量に関するKillingベクトル場を考察することにより、上記構成法で得られる自己双対不定値Kaehler計量が互いに等長的であるための必要十分条件を求め、上記の族が無限個の異なる等長類を含むことを示した。 また、コンパクト複素曲面におけるHamilton的S^1対称性を持つスカラー平坦不定値Kaehler計量を許容するものは、Hirzebruch曲面に限ることを示し、正定値の定スカラー曲率Kaehler計量の存在に対する障害として知られている坂東・Calabi・二木指標の二木・満渕による一般化を具体的に計算することにより、ランクが1以上のHirzebruch曲面は決してそのような計量を許容しないという非存在定理を証明した。したがって次の結果が得られた(現在投稿中): 定理.Hamilton的S^1対称性をもつコンパクトスカラー平坦不定値Kaehler曲面は複素射影直線の直積に限る。 2.四元数空間H^nあるいは超複素多様体および四元数多様体内の実超曲面を典型例として含む幾何学的対象として、CR構造、Levi形式、擬Hermite構造の四元数的類似物(超CR構造、四元数CR構造と呼ぶ)を定義した。さらに、擬Hermite構造の強擬凸性を然るべく定義し、CR幾何学における田中・丹野・Webster接続に類するアフィン接続が、四元数CR構造の場合にも、ある種の凸性に関わる条件のもとで一意的に存在することを示し、この凸性に関する条件のSp(n)・Sp(1)の表現論による意味付けを行った。(本研究は、納谷信氏(名古屋大学大学院・多元数理)との共同研究に基づくものである。)
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