本研究は、計算機科学の分野で困難な問題として知られる巡回セールスマン問題に対してピラミッド型巡回路を用いて理論的側面の考察と実杜会への応用を試みることを目的とする。今年度は、主に応用面に重点をおいて研究を行った。研究代表者が本補助金の申請前に考えたピラミッド型巡回路の拡張となる概念を用いて、近似解法への適用可能性について取り組んだ。この拡張の概念をシミュレーテッドアニーリング法などのメタヒューリスティックと組み合わせて適用することにより、よりよい解が得られることがわかった。しかし、この拡張の概念をそのまま利用すると大量にメモリを消費し、この節約が課題であったが、今年度後半になって、この拡張の主となるアイデアである「逆走」の頻度を計測し、頻度の高い「逆走」に絞って探索するアルゴリズムを新たに考案した。このアルゴリズムの考案により、時間計算量だけでなく、空間計算量についても0(4^kn^2)から0(k^3n^2)まで下げることができた。(nは頂点数、kはr逆走」を許す幅を表す。)また、頻度の高い「逆走」に絞ったごとによってもかなりよい解が得られることが実験によりわかった。この研究については、残りの実験を行った後、学術論文としてまとめる予定である。また、理論的側面については実用的な時間(多項式時間)で最適解が得られるような問題のクラスについて研究を行った。今年度末にイギリスのウォーリック大学に短期滞在し、当該分野の専門家であるデイネコ博士と議論を行った。ここでは巡回セールスマン問題以外でもさまざまな問題で有用であることが知られているモンジュ性の緩和化について研究を始めた。この研究においてもピラミッド型巡回路の拡張が有用であることが期待でき、帰国後もデイネコ博士と連絡を取りながら研究を継続している。
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