研究概要 |
申請者は研究課題である二次のウィナー汎関数とグラスマン多様体上の力学系の対応について研究活動を行った。確率論、特に確率解析学の中で、二次のウィナー汎関数は最も基本的でかつ豊かな性質を持つ対象であり、広く研究されてきているが、申請者が注目しているのは、そのウィナー空間上の振動積分の漸近挙動を研究する上での基礎としての役割である。ウィナー空間上の振動積分の研究は、理論物理学のファインマン積分の枠組みで言えば量子力学の波動関数の経路積分表示に対応し、その漸近挙動はすなわち半古典近似による古典力学への移行を意味する。しかし、ファインマン積分の数学的定義は未だに不可能であり、厳密に定義できる対応物であるウィナー空間上の振動積分の研究はその意味で重要と思われる。二次の汎関数の場合は、その基礎となる対象であるが、やはり未だに困難が大きい。そこで申請者はこれを一層精密に研究すること、特にその構造を捕まえることを目指して、二次ウィナー汎関数の特性関数、すなわちその振動積分型の期待値をグラスマン多様体上の力学系として対応させることに成功した。この事実は平成12年度の11月にパリ第六大学で行われた確率論日仏シンポジウムで報告したが、13年度になって、さらに大阪大学の小谷眞一教授によって示されたソリトン理論とガウス型確率変数との対応との関係が得られ、また、ガウス型確率変数の標準表現の問題とも関連することが分かった。これらの事実は13年度の9月に京都大学で行われたシンポジウムでの連続講演として発表した。また、同じく10月には以上の結果を論文"Quadratic Wiener functionals and dynamics on Grassmannians"としてBull. Sci. math. 125,No.6-7に発表、既に掲載されている。
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