平成13年度の実績を要約すれば、パラメータがある関係(P=q^3)を満たす場合にバクスターの8頂点模型の相関関数の多重積分表示(の予想式)を求めることに成功したということである。この結果は、パラメータの取りうる価に制限があるものの、8頂点模型独特の楕円関数に附随する代数を表現する繊細かつ精密な表現論からの帰結であり、まったく非自明なものである。私は少なくとも過去10年間この方面の表現論の可能性を追求してきたわけだが、平成12年度(平成13年2月初旬)8頂点模型に対して正確に機能する表現論の例にようやく到達、それに従い相関関数の明示的表式を研究した13年度はまことに収穫の大きい年であった。 この表現論に関して若干の詳細を示す。変型ピラソロ代数は言うまでも無くピラソロ代数のミニマル模型の変型理論として機能するわけだが、実はレポウスキーウィルソンの導入したz代数の変型理論としてみなすこともできる。つまり、変型ビラソロ代数は二つの異なる理論の折衷理論とも解釈できる、レベル4のz代数には対するピラソロ代数の中心電荷は1である。これは8頂点模型に対して期待される中心電荷の価と同じである。さて、レベル4のz代数に変型パラメータxを加えて変型ピラソロ代数に持ち上げるとする。ただし、x=1の極限でz代数が回復するものとする。実は、これにおいて、x=-1の近傍が8頂点模型の表現空間を与える。この考えに従えば、様々な表現論上の作用素は変型ビラソロ代数に対して知られている自由場表現の言葉で明示的に表示可能である。例えば、タイプ1と呼ばれる非常に重要な頂点作用素は1重の留数積分で与えられることがわかる。 相関関数の明示式についてもう少し述べる。n点相関関数の表示は上に述べたタイプ1頂点作用素2n個の積の規約表現上でのトレースで与えられる。従って、2n重の多重積分で与えられる。バクスター・ケランドによる1点相関関数の美しい式を再現することが最も簡単な場合におけるチェックである。現在の所、解析的に積分を実行する方法(どこまで実行できるかも含めて)は明らかになっていないが、1点相関関数に関しては、x展開によりかなりの高次の係数まで正しいことが確認できる。
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