方程式自身は自己相似解を持たないものの、時間が充分に経過した後での解の挙動は簡略化された方程式の自己相似解で記述されるかどうかという問題は半線形発展方程式論の興味ある研究課題の一つである。本年度は半線形発展方程式の典型例の一つである半線形波動方程式で、特にべき乗型の非線形項をもつものを考察した。非線形性のために、この方程式は自己相似解を持たないのだが小さい解に関しては高次のべき乗項が低次のものよりもすみやかに減衰すると期待できる。このために時間が充分に経過した後での解の漸近挙動が低次のべき乗項のみをもつ単純化された半線形方程式の自己相似解で記述される場合があるかどうかを調べることは意味深い。実際は、低次の次数が空間次元に依存して決まるある正数よりも大きく、かつ高次の次数が低次のものに充分近いならば、この問題は肯定的に解決できることが分かり、長い歴史をもつ半線形波動方程式の解の漸近挙動の研究に新しい1ページを加えることができた。また、この研究の思いがけない副産物として斉次の初期値をもつ線形波動方程式の解で漸近形が記述される半線形波動方程式の解のクラスの存在を得ることもできた。これは非線形散乱理論の研究からは従うことのない結論であり、この研究の価値を高めてくれることにもなった。次にこの研究で得られた解のクラスと非線形散乱理論との関係を調べた。その結果、時間が充分に経過した後での解の挙動がノルムを取り替えて見てみると自己相似解と自由解とで記述できていることも分かり解の漸近挙動に関してより精密な情報が得られた。
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