平均曲率流など界面の発展方程式や拡散現象に関連する自由境界問題の多くが、ある反応拡散系の特異極限と見なせることが知られている。これらの特異極限においては、界面などの空間的な特異性が現れる。では、反応拡散系の特異極限に成り得る方程式のうち、空間的特異性を持たないものはあるのだろうか?このような問題意識に基づき、本研究では非退化型準線形拡散方程式を反応拡散系の特異極限と見なす試みに取り組んだ。 本研究1年目の前年度には単純な場合として、単独の密度依存型準線形拡散を特異極限として導出できるような、線形拡散と単純な反応から成る反応拡散系を構成することに成功した。本年度は、前年度のアイデアを生かして、数理生態学において2種の拡散が準線形に絡む系として有名なShigesada-Kawasaki-Teramotoモデル(以下、SKTモデルと略称させていただく)を、適当な反応拡散系の特異極限として厳密に導出することを試みた。SKTモデルは、競争関係にある2種個体群の分散様式を、競争相手からの個体群圧効果を考慮したcross-diffusion systemとして定式化したものである。 本年度の成果として、競争相手からの個体群圧効果が一方的にのみ働く場合については、SKTモデルを特異極限に持つような4成分の反応拡散系を構成できた。この4成分反応拡散系の解のうち2成分は、3次元以下の空間領域では、SKTモデルの解(2種の個体数密度)に空間的一様に近いことが保証される。 この結果は、前年度の成果も取り込んで1編の論文にまとめられ、現在投稿中である。
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