研究概要 |
放物型方程式,とりわけ拡散項が解の値や勾配に応じて消滅するような方程式を退化放物型方程式という.退化放物型方程式については,解の存在や対応する定常問題個々について数多くの研究があるが,どのように定常状態に落ち着くのか,また定常解付近に初期値をとったときの解の挙動(安定性)については,あまり研究がなされていない(解の爆発問題については多くの研究がある).その理由のひとつとして,解の時間局所的な挙動をつかむための線型化の方法が拡散項の強い非線型性のため適用できないことが挙げられる. 今年度は,増殖項と抑制項とを併せ持つ,広い範囲の退化放物型方程式のクラスの一大域解の存在,正値定常解の安定性,および大域的アトラクターの存在と定常解集合との関係を研究した.研究対象は物理学や数理生態学に現れるある種の方程式を含んでいる.少し具体的に述べよう.解の勾配がゼロになるところで拡散効果を失う退化拡散項に対して,一意大域解が存在するような反応項の満たす十分条件を与えた.また大域的アトラクターの存在を示し構造を調べることで,解が最終的には(爆発を起こさず)ある状態に近づいていくこと,およびその挙動は定常解集合の不安定集合にそっていることを証明した.ここまでは線型拡散のときにはよく知られた事実ではあるが,退化拡散の場合には非常に簡単な場合を除いて研究されていないと思われる. 大域的アトラクターの次元を計ることで解の最終的な振る舞いの自由度を知り,そこから定常解集合の複雑さを表現できたらと考えているが,そこまでは出来なかった.また正値定常解はそれが一意的であれば漸近安定であることは得られたが,そうでない場合は退化拡散の本質的な問題が潜んでおり未解決である.いずれも線型化の方法の正当性が保証されていないことによる.
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