研究概要 |
ある種の非線型反応拡散方程式系では,拡散係数が極端に小さいと,いわゆる"内部遷移層"をもつ解が現れる.内部遷移層とは,空間内のある曲面を境に,解の値がほとんど不連続にみえるほど急激に変化している部分のことである.本研究では,物理学や数理生態学にあらわれる双安定型とよばれる反応拡散方程式を扱う.この方程式は特に物理学における相転移現象を既述するモデルとして古くから知られている.本研究の目的は,この方程式の内部遷移層をもつ定常解の存在,形状や安定性などの詳しい性質を明らかにすることである.本年度の研究の成果は次のようである. (1)任意の数の遷移層をもつ定常解をすべてみつけ,その存在を証明した. (2)それぞれの解のモース指数(安定度をはかる指数)は,定常解がもつ遷移層の位置と数により,完全に決定されることを証明した. 非線型力学系の分野においてよく知られていることであるが、すべての定常解を発見し,そのモース指数を調べる操作は,拡散反応方程式の解全体のダイナミクスを明らかにするための重要な鍵である.本研究では,ある指定した(しかし任意の)数の遷移層をもつ定常解をすべて発見することができ,その形状,安定性に関する詳しい結果がえられた.これは拡散方程式の解全体のダイナミクスを示唆するものである.実際この結果により,任意の初期データにたいするこの方程式の解が,どのような振る舞いをするか,かなり詳しく予想することができるようになった. これらの成果を国内外で発表し,他の研究者らと研究連絡をおこなうため,研究費のほとんどを旅費として使用した.また海外の研究者と研究連絡をおこなうため通信費(郵便代)を使用した.
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