本研究は、主に広域サーベイ観測を目的する広視野軟X線望遠鏡の、「多層膜スーパーミラー」と「Wolter II型光学系」による実現を当初の目的とした。 主たる観測ターゲットは宇宙空間に希薄に広がって存在する中・高温の銀河間電離ガスであり、これは宇宙の大規模構造のトレースとして研究の重要性が認識されつつある。このような観測には高波長分解能の低温検出器が必要であり、技術的な制限から焦点面でのplate scaleを小く、すなわち短焦点が要求され、かつ広い視野が求められる。 光学系研究においては、Wolter II型に加え、多重反射型のWolter I型光学系についても設計を行った。Wolter II型については、集光効率、plate scaleの観点から、2段目反射鏡を楕円内面鏡に改良することで、口径20cm、システム長1.5m、焦点距離1m、開口効率75%とのコンパクトかつ高効率の光学系の具体的設計を得た。また多段反射型光学系については、焦点距離及びシステム長1m以下かつ有効面積300cm^2という、大集光能力と短焦点を兼ね備えた設計パラメーターを得た。 一方多層膜スーパーミラーの設計及び試作においては、まず製作技術が確立しているPt/C多層膜スーパーミラーについて、2keV以下の軟X線領域で入射角5〜15度の反射鏡に対して、エネルギー帯域幅0.5keV(@1.3keV)などのスーパーミラー設計を得、1.7度の有効視野を得られることがわかった。次に反射率の観点から、Pt/Cに加えてNi/C、Cr/C、Mo/Siなどの多層膜についてイオンビームスパッタ装置により試作を行い、Ni/Cについては、Pt/Cに比べ理論値、実測値共に高く、軟X線領域での利用が現実的であることを確認することができた。 以上により軟X線広視野撮像分光観測に最適な光学系製作のための基礎的な知見が得られ、具体的な開発へと発展することが可能となった。本研究の成果を基に、すでに国内外の研究者との共同研究による具体的な小型衛星計画提案の検討を開始している。
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