1. 超新星爆発における速い中性子捕獲反応(r過程)による元素合成の研究を行った。我々の身近に存在する鉄より重い元素の大半、特に、金、銀、プラチナ等の貴金属はこのr過程で合成されると考えられているが、その起源は明らかにされていない。我々は、r過程が、大質量星の超新星爆発時に形成される原始中性子星付近で起こると仮定し、その温度・密度変化を、一般相対論的・半解析的手法による数値計算により導いた。その結果を、水素からウランやプルトニウムにおよぶ3000個以上の同位体を含む原子核反応ネットワーク・コードに適用し、r過程元素合成の計算を行った。その結果、原始中性子星が非常に重い場合(2太陽質量程度)、太陽系r過程元素のパターンがよく再現されることを明らかにした。これは、r過程元素の起源は大質量の超新星爆発であることを示唆する。 2. 長寿命放射性元素ウラン、トリウムにより、宇宙年齢の下限値を求めた。ウランやトリウムなどのアクチノイド元素は全てr過程で合成される。特に、ウラン238(半減期44. 7億年)やトリウム232(半減期140. 5億年)は宇宙年齢に近い寿命をもつ放射性元素なので、「宇宙時計」として利用することができる。最近、銀河系で最も古い星の一つである金属欠乏星に初めてウランとトリウムが同時に発見された。我々は、上述のr過程元素合成の結果とこの星の元素組成データを詳細に比較することにより、その年齢を計算した。この星は宇宙で最も年老いた星の一つであるので、その年齢は宇宙年齢に非常に近いと考えられる。計算の結果、131±23億年という値が得られた。これは、他の手法により得られた宇宙年齢の値(宇宙背景放射、Ia型超新星、球状星団等)と誤差の範囲で合致する。
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