この研究の目的は、Luscherらによって創始された、カイラルゲージ理論の格子上での明白にゲージ不変な定式化を、非アーベル的なゲージ群の場合に拡張すること、および、この定式化から引き出す事のできる物理的結論を解析する事である。今年度は、以下のような成果を得た。(1)この定式化に関連してLuscherによって提案された、4+2次元のトポロジカルな場が、降下方程式(descent equation)という代数関係を満たす事を示し、これに基づいて、この場の積分がカイラルフェルミオンの積分測度を特徴づけるファイバー束を分類する整数(Chern数)を与える事を示した。さらに、この事実が、無限に広い格子上での異常項の情報を、有限サイズの格子に焼き直すことに利用できることを議論した。(2)以前から、我々が行っている無限に広い格子上での局所コホモロジーの一般論をまとめ、現時点で解析可能な最も広い条件下での格子上の量子異常項の構造決定を行った。(3)有限サイズの格子上での異常項の構造がアーベル的なゲージ群の場合には本質的に決定できることに着目し、この事実を利用して2次元理論でのボゾン化を格子上で定式化する試みを行った。(4)以前から、菊川、中山によって、電弱相互作用SU(2)×U(1)のゲージ群の場合が無限に広い格子上では取り扱えることが指摘されていた。この結果を有限の格子に拡張する試みを行った。(5)カイラルなゲージ理論での基本的な離散対称性はCPであるが、この格子定式化ではCP対称性が明白ではない。この性質が、この定式化に固有の問題である事を示し、(6)さらに、このCPの破れの効果が理論のどこに影響するかを完全に明確にした。 これらの成果の一部は既に雑誌に投稿済であり、残りの部分に関しても近日中に論文として発表する予定である。
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