本研究の目的は、一般に中心場的な構造を持つと信じられている「原子核」が、多中心的、分子的な構造を持つのかどうかを明らかにすることであり、そのような多様な構造が中性子過剰核などの不安定核でさらに重要性を増すのではないかという可能性をさぐることである。今年度は、その様な分子的構造の例として、軽い不安定原子核におけるクラスター構造をとりあげ、炭素同位体およびBe同位体の構造計算を主に行った。 炭素同位体では、3つのαクラスター(^4He原子核)のまわりをバレンス中性子が運動するような状態が存在するのかどうかについての議論を行った。特に^14C原子核においては、3つのαクラスターが正三角形の配位を持ち、そのまわりに、ふたつの中性子がまるで分子における共有結合のような軌道を占有して運動する状態が存在する可能性を示した。この事は、原子核においては初めて、3回対称性という多様な存在形態が存在する可能性を示しており、現在論文の投稿を準備中である。また、さらにバレンス中性子の数を増やすことによって、3つのαクラスターが直線上に並ぶ状態も、励起状態に存在できるのではないかという示唆を与えた。^16C原子核がその候補であり、これについてはPhysical Review誌に発表した。 さらに、今年度は^<10>Be原子核において、非軸対称変形の可能性を議論した。Be同位体においては2つのαクラスターが存在するという描像が成り立つことが古くから知られてきた。我々は以前からα+α+n+n・・という模型を用いてBe同位体を議論してきたが、今回この模型を用い、非軸対称変形を指摘した。電荷はαクラスターにのみ存在する。もし2つのαクラスターのみが存在すれば(^8Be)、電荷分布は軸対称である。この系のまわりにバレンス中性子が存在しても(他のBe同位体)、それらが軸対称な軌道を持てば、系の対称性は保存されるはずである。しかしながら、中性子過剰原子核のような弱結合系においては、バレンス中性子間の相関が重要になり、それによって中性子の軌道は軸対称からずれを生じる。また、この中性子のもたらす反跳によって、Be同位体の電荷分布は軸対称からずれを生じることが示された。これは中性子過剰核に特徴的な非軸対称変形をもたらすメカニズムを指摘したと言えるかもしれない。これについても、Physical Review誌に発表した。
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