当年度においては、従来の分子軌道法を用いた軽い原子核のクラスター構造の研究をさらに発展させた計算を行った。まず9Be核のE1電磁遷移確率の分析を行った。この原子核のこの遷移確率は、超新星爆発後などにおこる爆発的元素合成(r-process)において、その最初の部分で決定的に重要な役割を担っており、宇宙における重い元素の生成メカニズムにかかわる問題である。ところが最近の実験により、その遷移確率はこれまで信じられていた値よりも2倍程度大きいことが示された。今回、我々は従来より開発してきたクラスター模型を用いた理論的枠組みを適用することによって、この実験的に新しく得られた遷移確率が正しいものであることを検証した。この結果については、Physical Review誌に詳細な分析を発表した。 次に、軽い原子核の構造を計算する新たな枠組みの開発を行った。最近発展しつつある反対称化分子動力学(AMD)をさらに発展させ、AMD波動関数を何百も重ね合わせることによって核構造を精密に記述する方法を開発し、この手法をAMD-superposition of selected snapshotsと命名した。この方法により、従来のAMD法では不可能であった「中性子ハロー構造」など、中性子過剰核に現れる特徴的な物理現象がよい精度で記述されることが示された。また、Be同位体のクラスター構造や、さらにC同位体やO同位体など、幅広い質量領域が系統的に計算されうることも示された。さらに解析接続の手法と組み合わせることにより、束縛状態のみならず、共鳴状態の定量的な記述も可能であることがわかった。現在Physical Review誌に論文を投稿中である。
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