本研究の目的は、放射光の何X線領域での二次コヒーレンス(光子統計)を二光子吸収から評価することである。実験方法の確立のために、(a)He-Neレーザーから生成された擬似カオス光の二光子吸収測定、(b)軟X線発光測定、(c)遅延時間変調法による放射光の二次空間コヒーレンス測定、の3つ研究を並行して進めた。 (a)では、光子統計を人為的に制御できる可視光のレーザーと回転すりガラスを用いて、光電子増倍管の二光子吸収確率の測定を行った。カオス光の方がコヒーレント光に比べて揺らぎが大きいため、二光子吸収確率が増大すると予想されたが、実験ではカオス光の方が二光子吸収確率が減少するという非常に興味深い結果が得られた。現時点では、その結果の解釈は完全にできていないが、非局所的な二光子吸収等が原因である可能性があり、研究を継続する予定である。 軟X線での二光子吸収は、二光子吸収によって生じた内殻正孔に電子が遷移することで放出される軟X線を検出するものであるが、そのために軟X線発光分光技術を確立する必要があった。(b)の研究では、希土類金属、遷移金属の発光分光測定を高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設で行った。この研究から、軟X線発光分光測定が物質の電子状態の研究に極めて有効であることが分かり、希土類金属、遷移金属の軟X線発光過程の特徴を理解することができた。この実験の成果は論文として発表済みである。 何X線二光子吸収によって放射光の二次コヒーレンスを評価する前に、参考として別の測定方法によって二次コヒーレンスを測定しておくのが望ましい。(c)では、「遅延時間変調法」という新しい二次コヒーレンス測定法を開発し、高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設で実験を行った。実験では、放射光がカオス光であることを明確に示すデータが得られた。この研究成果の論文は、投稿済みおよび投稿中である。
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