前年度の研究報告で、チタン-44を用いたμ^--μ^+変換過程の探索実験の検討も開始したと報告した。これは、二重ベータ崩壊のミュオン版に相当する反応であり、従って二重ベータ崩壊に匹敵する重要な反応である。表面ミュオンビームラインの技術を応用して、μ^+の質量分析をすることにより、バックグランドを抑えた高感度の実験が可能であることを提案した。但し、二重ベータ崩壊と直接競争出来るまでの精度に達するには、陽子加速器の強度が不足していることも判明した。超対称性模型でR-parityを破る過程に対しては相当の感度があることが指摘されていたが、その後理論物理研究者との議論を通じて、モハパトラらの原論文の計算に間違いがあることも判明した。同様の指摘がロシア人研究者からも報告された。従って、現在の技術で到達可能な分岐比では、競争力のある物理を出すことは難しいとの結論となった。但し、今まで誰も測定したことのない反応過程であるので、予想もしない現象が観測される可能性も否定出来ない。研究課題の優先度としては低くするものの、引き続き実験の可能性を探ってゆきたいと考える。 ミュオニウム・反ミュオニウム変換実験に関しては、前年度に引き続き、タングステン-184箔をミュオニウム生成ターゲットと反ミュオニウム検出器の二役に活用する方法の検討をしている。すなわち、タングステン-184をおよそ2cm間隔で層状に並べることによって、ミュオニウム生成効率まで含めた全体の検出効率を格段に改善できると考える。
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