研究概要 |
超弦理論は統一理論の最有力候補であり、また紫外発散の問題のない無矛盾な現在唯一の量子重力理論である。一方、一般相対論はこれまで量子化に成功していないため、超弦理論は重力の諸問題について一般相対論ではなし得なかった成果が期待される。 一般相対論の重要な未解決問題の一つに特異点問題がある。超弦理論における特異点問題の現状については「11.研究発表」に記載した総合報告にまとめた。 超弦理論では時空特異点を解消するさまざまな方法が知られているものの、多くは特異点近傍だけを修正する方法である。しかし特異点の中には、何らかの方法で発生を禁じなくてはならないものもあることが近年わかってきた。負の質量のシュワルツシルト解は、その一例である(Horowitz-Myers,1995)。エンハンソン・メカニズム(Johnson-Peet-Polchinski,1999)はこの種の特異点発生を禁止する代表的な方法である。この手法はもともとType IIA超弦理論で議論されたものであるが、ヘテロティック弦での特異点解消に応用した。 ヘテロティック弦では、コンパクト空間に巻きついた弦からこのような現象が起こる。コンパクト空間が適当な大きさの時、新たな質量ゼロ粒子が出現するため、超重力理論のような低エネルギー理論は破綻する。このため超重力理論では特異点を予言しても、超弦理論としては時空は特異的でなくなる。通常のエンハンソン・メカニズムは、非摂動論的な現象であるため理解が不十分であるが、ヘテロテイック弦では摂動論的現象である。このメカニズムが摂動論的に現れる理論を調べることで、メカニズムの理解がより深まった。
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