本年度は大電流マルチバンチ電子ビームのためのS-Band加速管の基礎開発として主にシミュレーションによるスタディを行なった。 まず加速管の各セルのジオメトリーをMAFIAという電磁場シミュレーションソフト上で再現し、加速モード、および横方向のwake場(最低次の双極モード)を計算した。S-bandの加速管は多数のセルからなっているので、ビームが加速管からうける影響は全てのセルについての和となる。まずは各セル間の相互作用を無視した簡単なモデルによって加速管全体のWAKE場の影響を評価した。 仮定した加速管はセルあたりの高周波位相の進みが2/3π、セル数は80、加速管の全長は3m程度とごく一般的な仕様である。しかし各セルの双極モードの周波数を意図的にずらして、各セルからのwake場の影響を互いに打ち消しあう効果をねらっている。(detune法) しかし計算の結果、打ち消しの効果が不充分であることがわかった。その理由の一つはS-bandという周波数を用いたためにセル数が80と限られてしまい、打ち消しの精度が悪化したためである。また双極モードの周波数が低く、次のビームが到達するまでの間の双極モードの振動数が大きくとれなかったことも理由である。wake場は減衰振動をおこなうので周期あたりの減衰が同じでも振動数が低下してしまうと減衰の効果は小さくなってしまう。これらの問題についてS-bandという周波数を用いるかぎり大幅な改善は困難である。 以上のようにdetune法によりwake場を抑えることは困難に思える。しかし減衰が不十分でも、wake場はサイン型の振動を決まった周波数でおこなうので、次のバンチが到達する時間にちょうどその大きさがゼロになるようにその周波数を合わせられれば、実質的にwake場の影響を抑え込むことができる。計算上は双極モードの周波数を数パーセントずらすように加速管形状を多少変更することで、そのような効果を期待できることが確認された。
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