本年度は大電流マルチバンチ電子ビームのためのS-Band加速管の基礎開発として、前年度に行なったシミュレーションをもとに加速管のプロトタイプを製作し、高周波特性の測定とシミュレーションとの比較を行なった。 前年度のシミュレーションの結果、単純なdetune法では打ち消しの効果が不充分であることがわかった。そこで双極モードの周波数をビーム間隔(1.4nsまたは2.8ns)に同期させ、ビーム通過時にウエーク場の振幅がゼロとなるような加速管形状を計算により導きだした。 プロトタイプにおける測定から、シミュレーションで予想された共鳴周波数と測定により得られた周波数は1e-4以下の精度で一致していることが確認された。これにより細かい加速管の形状の変更を行なうさいにもシミュレーションでその影響を推測することが可能であることが明らかとなった。 しかし本研究で作ろうとする加速管では双極モードの周波数とビーム周期とが極めて高い精度で同期している必要がある。その精度は1e-5以下と見積もられ、シミュレーションにより得られているものよりもさらに一桁小さい。そのために様々な加速管形状での双極モードの共鳴周波数データを収集し、それより得られたデータをもとにテーブルを作り、任意の形状について双極モードの共鳴周波数が極めて高い精度で得られることを目指した。 そのために用いた方法は、ある一つの形状について製作したプロトタイプを、加速モードの周波数を一定に保ちながら追加工を行ない、各々の加工後に周波数測定を行ないながらデータを収集していく方法である。従来は各々の形状についてプロトタイプを製作していたため、非常にコストがかさんでいたが、この方法により一組のプロトタイプから多くの形状についてデータを収集することができ、予算を効率的に使用することが可能となった。 この周波数テーブルを用いることで、実器の製作時に従来必要であった周波数調整のための追加工の必要がなくなり、製作時のコストを大幅に低減できるものと期待できる。
|