Geant4は、放射線と物質の相互作用を精密にシミュレーションするためのツールキットである。利用者は、物体の構造を定義し、必要な情報を取り出すために、このツールキットに与えられた機能を用いてプログラミングをする。物体の構造が複雑で、入射粒子の数が増えると、シミュレーションに要する時間が非常に長大になる。また、中性子のように散乱断面積が小さく、寿命の非常に長い粒子の場合にも、長時間を要する。放射線と物質の相互作用は、物理法則に従う確率過程なので、多くの事象を発生させ、統計的に結果を解析する必要がある。ただし、個々の事象は、統計的に独立に扱うことが可能なので、平行して処理を行うことができる。Geant4は、オブジェクト指向技術に基づき、設計、実装されているので、入出力もオブジェクトとして扱えることが望ましい。本研究においては、分散オブジェクトのための標準化技術であるCORBAを用い、並行に複数の事象を異なる計算機上で処理するためのソフトウエアを構築した。また、昨今、急激に注目を集めている、分散コンピューティングをインターネット上に広げるための技術、GRIDに対応を行った。GRIDの認証機構を取り入れ、遠隔地のホスト間でもオブジェクトのやり取りが可能なCORBAの実装を利用し、並行処理を複数のサイトに拡大して行えるよう、拡張を行った。シミュレーションの途中でやりとりされるオブジェクトの内容に関し、たとえ盗聴されても、何の弊害もないことから、認証を除いては平分で通信することとし、処理の効率化を図った。TOP-Cと呼ばれる、並列化のライブラリを用いると、複数のメッセージパッシングのライブラリが選択して利用できる。このソフトウエアもGRIDに対応したので、Geant4ツールキットを並列化するのに必要なソフトウエアの実装が行われた。
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