本研究では偏極した希ガス元素^<129>Xe原子核スピンのコヒーレンス制御を外部フィードバック機構を用いて行って、スピン歳差を長時間維持する核スピンメーザーの開発を行なった。それにより従来の核スピンメーザーでは発振不可能であった低周波数領域(〜30Hz)で核スピンの発振を実現することに成功した。核スピンの歳差を維持する発振現象を実現するためには、偏極スピンの横成分に常に直交する横磁場をスピン系に印可しなければならない。そのため、外部共振器型半導体レーザーを用いて光学的に^<129>Xe核スピンの歳差位相を検出するシステムを構築した。この光学的手法は、NMRコイルでの検出が困難な低周波数のスピン歳差に対して有効である。こうして検出されたスピン歳差信号を位相検波し、演算回路を通じて、横方向磁場の位相・振幅を調整してスピン系に印可する。 この「フィードバック磁場」の生成において位相の誤差が生じると核スピン歳差の定常発振周波数がシフトする。これはレーザーにおける引き込み効果と同等のもので、本研究で用いたフィードバックシステムではこのフィードバック磁場の位相を精密に制御することが可能である。この位相誤差とスピン横緩和時間T_2を変数とした際の発振周波数シフトの測定を行なった。その結果、修正Bloch方程式から導かれるものと良い一致を示し、T_2=300sでは周波数誤差は位相誤差1°あたり9μHzまで抑えられることが分かった。この光学的スピン検出を用いた核スピン発振器が電気双極子モーメントの探索実験などの精密物理実験にとって有用であることが分かつた。
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