絶縁体と金属の高精度の界面の形成は、従来、実験的に非常に困難とされてきたが、近年、実験技術のめざましい進歩によって、LiCl/CuやMgO/Agなどの界面が形成され、その電子状態が調べられつつある。本年度は、まず、前者の系に対し、いわゆるmetal induced gap state(MIGS)の形成が実験的に示唆されたことに触発され、この系の電子状態を第一原理計算によって調べた。この結果、従来、半導体特有の現象と思われていたMIGSの存在が、LiClのようなギャップの大きな絶縁体(イオン結晶)と金属の界面でも生ずることを明らかにした。さらに、この性質は、金属元素の種類にはあまり依存しないこと、MIGSの波動関数のcharacterは実験と極めてよく一致することなどを示した。このMIGSの存在は、将来的にはexciton機構による界面超伝導などの興味深い多体現象につながることも期待され、この可能性の理論的考察を開始した。後者のMgO/Agの系では、最近の実験で、いわゆる極性界面の形成が示唆されている。従来、極性界面は、エネルギー的に非常に不安定とされ、その形成は難しいとされてきたが、なぜこのような状態が安定に存在するのかについての第一原理計算を開始した。 白金などの界面上に、有機薄膜を形成し、その界面で、電荷移動をおこさせることによって、有機物に磁性をもたせられるかについて考察した。5員環高分子、ポリアミノトリアゾールでこのような薄膜の形成ができれば、この系で遍歴磁性が現れる可能性を第一原理計算によって理論的に提案した。
|