氷(H_2O)、硫化水素(H_2S)、ハロゲン等の単純分子性物質は、通常液体や気体として身の周りに存在しているが、数万気圧以上の高圧下では弱い分子間力により凝集する分子性固体になる。数十万気圧以上の超高圧力下では分子間距離が分子内結合距離に近づき、もはや分子を単位として考えることが無意味になる。換言すれば、分子性の消失である。電子状態に注目すると、分子同士の接近により波動関数の重なりが大きくなる結果、離散的だつた電子状態はバンドを形成するようになる。さらなる加圧は価電子帯、伝導帯のオーバーラップを引き起こし金属状態を実現させる。 本研究では、圧力と共に変遷する単純分子性固体の電子物性を定量的に議論し解明することを目的としている。平成13-14年度に交付された科学研究費補助金により、超高圧力極限状態において高精度に可視紫外透過、近赤外反射そしてラマン散乱の各分光測定を高精度に行う技術を確立することに成功した。これらの測定技術は、固体硫化水素、固体臭素へ適用され、固体硫化水素の圧力誘起バンド形成、固体臭素の金属化と分子解離を明確に捉えることに成功した。今後、氷等で見られる水素結合対称化が固体の電子状態にどのような影響を与えるのかを解明することが課題である。
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