研究概要 |
ハロゲン架橋金属錯体は,強い吸収2色性,高次にわたるRaman散乱,大きなStokesシフトを伴う発光スペクトルなど,興味深い光学活性物質である.近年この物質系において金属の複核化が成功し,いわゆるMMX錯体の物性測定が盛んになっており,本研究課題では,これを理論的にリードすることを目指している. 研究初年度においては,基底状態の性質を対称性の議論に基づき系統的に解明することを目標としたが,研究は順調に推移し,既に励起状態の計算への足掛かりも得られている.複核金属錯体の基底状態は実に多彩であり,配位子によってpop系,dta系と略称される2つの物質群で,対称的な混合原子価分布を見せるが,その起源・発生機構は,明快に解釈された.さらにdta系で実験観測が錯綜した2段の熱転移についても,その起源を示して議論を収束させた.物理的な機構は多種多様であり,これを単一起源として解説することは難しいが,そこでは,電子・格子結合のタイプの違い,すなわちpop系のPeierlsタイプ(サイト非対角型),dta系のHolsteinタイプ(サイト対角型)という相違が,最も本質的ドライビング・フォースになっていることを示した. さらにpop系の圧力誘起相転移について,理論・実験のタイアップ研究が実現した.10年前にロス・アラモスグループ(USA)が提出した実験観測に対して,最近東大物理工学系(岡本博グループ)から一見相反する実験観測が報告されたが,そこでの主たる相違要因を明らかにし,エネルギーとエントロピーの競合,また電子遍歴性とクーロン相互作用の協調という観点から,両観測を整合的に解釈することに成功した.
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