これまで本研究代表者は、現有の波長可変短パルス光源を用いてコヒーレントフォノンの研究を行ってきた。しかし、この光源からの出力パルスの幅は80〜100フェムト秒程度であり、通常の固体内のフォノン周期より十分短いとはいえない。そのため、研究の過程でコヒーレントフォノンが生成されていることは分かるものの、その位相はぼやけてしまい、励起パルスの波長や強度にどのように依存するかは議論できなかった。 そこで、昨年度は、新たな波長可変光源を作成して、より狭いパルス幅の光を得た。具体的には、自己位相変調効果で得られた白色光と、紫外光とを非線形光学結晶に非同軸で混合し、通常の光源より広いスペクトル幅で同時にパラメトリック増幅が起こるようにした。得られた光は、最適なプリズム間隔では約38フェムト秒までパルス幅が狭窄化されることが分かった。 本年度は、上記の極短光パルスを使ってワイドギャップ半導体中のコヒーレントフォノンの観測を行った。この光源は、通常、コヒーレントフォノンの測定に用いられる近赤外のモードロックレーザーと比べてパルスの繰り返し回数が1万分の1以下であり、測定の際のS/Nがその分悪くなる。そこで、信号測定系の改善を行い、繰り返しの低い波長可変光源であるにもかかわらず、他のグループと同等のS/N比が得られるようにした。以上の結果を踏まえ、サンプルとしてはZnSeを用い、これまでほとんど報告例のない、バンド間遷移付近の励起波長の光を使ったコヒーレントフォノンの観測に成功した。
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